トップページ > 企業・研究機関の方へ > 注目研究情報 > 生体膜の多様性形成メカニズムの一端を解明 – 多様性にかかわる酵素の異常はマウスの呼吸障害を引き起こす

発表者

要旨

多様な構造を持つリン脂質は生体膜の主成分であり、その組成は体の組織によって大きく異なっている。また、様々な疾患時にリン脂質の組成に変化が見られることが知られている。このような多様性を説明できるような酵素群、リゾリン脂質アシル基転移酵素が近年多く発見されていたが、具体的にリン脂質の組成をどのように調節するかは不明であった。

今回、国立国際医療研究センター研究所 研究所長(東京大学大学院医学系研究科 細胞情報学分野/リピドミクス社会連携講座の清水孝雄特任教授併任)らのグループは、これらのリゾリン脂質アシル基転移酵素の活性とそれがもたらすリン脂質の組成変化を詳細に調べることで、主要なリン脂質であるホスファチジルコリンの組成を調節する因子を同定した。また、このような調節が破綻した場合に生じる影響を調べるために、リゾリン脂質アシル基転移酵素の一種であるLPCAT1を欠損したマウスを作製したところ、急性肺障害での死亡率が高まった。

今回の研究は生体膜ホスファチジルコリンが多様性を獲得するメカニズムの一部を明らかにし、それが正しく働くことが生物の生存に重要であることを示した。また、呼吸に関与する界面物質(肺サーファクタント)の異常によって低体重出生児で発生する呼吸の障害や成人の急性呼吸窮迫症候群に対して、新たな治療法の可能性が期待される。

研究の背景

リン脂質は生体膜や肺サーファクタント(呼吸を正常にする界面物質)の主成分である。主要なリン脂質は1つの極性基と2つの脂肪酸を持ち、それらは様々な構造を持つ(図)。

リン脂質

極性基としてホスホコリンを持つホスファチジルコリンというリン脂質は生体に最も多く、その脂肪酸の組成は様々な組織や、病態時などで異なっている。リン脂質の脂肪酸組成を調節しうる因子としてリゾリン脂質アシル基転移酵素という酵素群が同定されていたが実際にこれらがどのようにホスファチジルコリンの多様性に影響するかは詳しくは知られていなかった。

本研究の概要・意義

様々なリゾリン脂質アシル基転移酵素がホスファチジルコリンの脂肪酸の組成に与える影響を調べた結果、異なる酵素が様々な脂肪酸を導入することで、各組織に特徴的な組成がみられることがわかった。また、リゾリン脂質アシル基転移酵素の一種であるLPCAT1という酵素を欠損したマウスを作製したところ、肺サーファクタントのホスファチジルコリンの脂肪酸組成に変化が生じていた。このマウスは急性肺障害に高い感受性を持っており、肺において正しいホスファチジルコリン組成を保つことが生体にとって重要であることがわかった。

本研究の概要・意義

急性肺障害の組織像(左が野生型、右が遺伝子欠損マウス)

急性肺障害の組織像

今後の展望

ホスファチジルコリンの多様性が形成されるメカニズムは正常な組織を調べて明らかにしたものである。今回提唱したメカニズムが様々な病態時に生じるホスファチジルコリンの変化を説明できるか、また、それが病態の進行に影響するかを調べることが今後重要である。さらに、本成果は現在、低体重出生児の肺障害に対して投与されている、牛から単離された肺サーファクタント脂質に代わる新たな治療法の開発につながる可能性もある。

なお、本研究は国立国際医療研究センターと東京大学の共同研究である。

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