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分子炎症制御プロジェクト
小路 早苗

University of Texas Southwestern Medical Centerでの研究留学を通じて

私は2008年1月から2012年12月までの5年間、テキサス州のUniversity of Texas Southwestern Medical Centerに研究留学していました。留学以前は、大阪大学でHIVの増殖を抑制する細胞性宿主因子を研究していました。HIVの研究論文が受理され、次の行先を考えていたころ、イェール大学の岩崎明子先生が、免疫細胞がウィルスを認識するのにオートファジーが必要とだという論文をScienceに投稿されました。その論文は、オートファジーがウィルスから細胞を守る、免疫のような機能があることを知るきっかけになりました。面白いと思い、ウイルスとオートファジーの研究ができる海外のラボを探すうちに、Dr. Beth Levineのラボを見つけ、留学しました。

私が留学した時、HIV-1の病原因子Nefとオートファジーに必須の遺伝子Beclin 1 (Atg6)が結合することがすでに他のラボの研究から分かっていました。そこで、NefとBeclin 1の結合を阻害した場合、HIV-1の増殖が変化するのか調べるため、ペプチドを用いることにしました。ペプチドのデザインをするためにNefがBeclin 1のどこに結合するのか免疫沈降法で調べたところ、Beclin 1の267番目から284番目までの11アミノ酸が必要であることが分かりました。そこで、この11アミノ酸を合成して細胞内に添加したとこ、予想に反してNefとBeclin 1の結合には変化はありませんでした。

しかし、細胞の形態が顕著に変化していることに気がつきました。顕微鏡観察でたくさんの膜構造がみられたことから、オートファジーが誘導されていることが考えられました。電子顕微鏡での観察、マーカータンパク質の発現変化、蛍光顕微鏡によるオートファゴソーム形成の観察などから、ペプチドは、検証したすべての細胞及び複数のマウスの臓器(脳、筋肉、肺、心臓など)において、オートファジーを誘導することが分かりました。さらに、ポリグルタミンの凝集体を細胞に強制発現させた後、Beclin 1のペプチドを作用させると、タンパク凝集体の量が顕著に減少することが分かりました。次にウエストナイルウイルス、チクングンヤウイルスを細胞に感染させペプチドを処理すると、ウイルスの増殖が抑制されました。マウスにこれらのウエストナイルウイルス、チクングンヤウイルスをそれぞれ感染させペプチドを腹腔内投与したところ、それぞれ筋肉と脳でウイルスの増殖が顕著に減少し、またペプチドを投与したマウスはコントロールを投与したマウスに比べより多く生き残ることが分かりました。どのようにしてペプチドがオートファジーを誘導するのか調べるため、ペプチドに結合するタンパク質をマス・スペクトロメトリーで解析しました。同定された遺伝子の1つであるGAPR-1はBeclin 1をゴルジ体にトラップしてオートファジーの誘導を阻害すること、ペプチドを処理するとペプチドがGAPR-1に結合し、Beclin 1をゴルジ体から細胞質に開放することでオートファジーを誘導することが考えられました。

このようにペプチドはウイルスやタンパク凝集体を直接標的にするのではなく、細胞が持っている機能であるオートファジーを亢進することによって、感染症やタンパク凝集体の蓄積から細胞およびマウスを守ることができるため、新しいタイプの治療薬として応用できるのではと考えています。今後はオートファジー活性の亢進が有効と考えられる他の疾患にこのペプチドが有効であるか検証していきたいと思っています。

アメリカでは共同研究が盛んに行われていました。たとえば、自分の研究室ではできない実験を行いたいとき、まずは同じ大学内で共同研究できる研究者を探しました。まず大学のホームページにキーワード、たとえば構造生物学、と打ち込んで検索しますと、構造生物学の研究を行っている研究者が見つかります。次に、その研究者にメールしてアポイントを取り、共同研究の話をしに会いに行くという具合です。また、大学にはたくさんのcore facilityがあります。私の実験では、ペプチドは、protein chemistry coreに合成してもらい、DNAのシークエンスもcore facilityにお願いしていました。またタンパク質の共局在を蛍光顕微鏡で調べるときは、Live cell image coreに、電子顕微鏡の写真を撮りたいときはElectron microscopy coreにお願いし、お金は支払うのですが、サンプルの作り方から顕微鏡の使い方、そしてトラブルシューティングまで教えてもらえました。それぞれの研究手法でのspecialistに色々な実験方法を学べるのは、有益だったと思います。

日本に帰国した今も、色々な分野の研究者の方々と共同研究できたらと思っています。違う分野の研究者の方々と一緒に研究することは、大きく研究の幅を広げることが可能だからです。オートファジーを誘導するペプチドの研究に興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひお声をおかけください。

オートファジーを誘導するペプチドの研究

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