ラオス初のサルマラリア原虫(Plasmodium knowlesi)のヒト感染症例|国立国際医療研究センター研究所

ホーム > トピック・関連情報 > プレスリリース > ラオス初のサルマラリア原虫(Plasmodium knowlesi)のヒト感染症例

ラオス初のサルマラリア原虫(Plasmodium knowlesi)のヒト感染症例

2018年3月23日

国立国際医療研究センター

米国科学誌『PLOS Neglected Tropical Diseases』掲載

研究の背景

国立国際医療研究センター(NCGM)は、国際協力機構(JICA)と日本医療研究開発機構(AMED)が共同実施するSATREPSプログラムの支援を受け、NCGM海外研究拠点の一つであるラオス国立パスツール研究所と協働し、ラオスの寄生虫対策研究を2013年から実施している。これはラオス政府からの要請に基づく共同研究であり、その活動は研究だけでなくラオスの若手研究者人材の育成も行っている。ラオス政府は2030年までに同国のマラリアを排除(elimination)することを目標に掲げているが、この目標を達成するためには、同国のマラリアの詳細な流行状況を明らかにし、より効果的な対策を立案して実施する必要がある。近年、東南アジア諸国では、通常、野生のサルにのみ感染しているサルマラリア原虫(Plasmodium knowlesi)が、ヒトに感染した症例が数多く報告されている。特にマレーシアでは、このサルマラリア原虫のヒト感染により、死亡例も報告されており公衆衛生上非常に大きな問題となっているが、ラオスからはまだこのサルマラリア原虫のヒト感染症例は報告されていない。

本研究の概要・意義

東南アジア諸国におけるサルマラリア原虫ヒト感染症例の増加原因は、森林開発、並びにエコツーリズムの増加に伴い、これまでヒトが入らなかった森林地帯=“野生のサルの生息地域”に、多くのヒトが足を踏み入れるようになり、蚊を介した野生のサルとヒトとの接触機会が増加したためと予想される。これまでマレーシア、フィリピン、タイ、カンボジア、ベトナム、ミャンマーからサルマラリア原虫(P. knowlesi)のヒト感染症例が報告されており、当センターでも2012年にマレーシア帰りの日本人がこれに感染した輸入症例を経験し、日本人初のP. knowlesi感染症例として国際学術誌に報告した(谷崎ら Malaria Journal,2013年4月,12;128)。

ニューヨークタイムズの「世界で一番行きたい国」第1位に選ばれたこともあるラオスは、国土の約70%を森林山岳地帯に覆われ野生のサルが多い。近年、ラオス政府は豊かな自然を生かしたエコツーリズムを積極的に推進しているために、外国人旅行者が森でサルをはじめとした野生動物と接触する機会が増えている。わが国からのラオスへの渡航者数も徐々に増加し、成田からの直航便の就航も計画されている。

そこで我々は2015年から2016年にかけて、マラリア患者報告数が多いラオス南部5県から、約2,700検体のマラリア患者血液検体を採取して、サルマラリア原虫(P. knowlesi)のヒト感染の有無について、高感度DNA診断方法(PCR法)とDNA塩基配列解読装置(DNAシークエンサー)を用いて詳細に解析を行った。その結果、ラオス南部の村に住む12歳の少年が、P. knowlesiに感染していることが明らかとなった(図1)。この少年に国外渡航歴はなく、家族と共に村のそばの森林で作業をすることがあることを確認した。また少年の父親は森林で野生のサルを目撃したことがあると我々のインタビューに答えた。

当少年の病歴としては、主訴として40℃の発熱を呈し、地元の医療機関で迅速診断テストキットによるマラリア検査を受け、三日熱マラリアと診断されていた。その後、アルテミシニン併用療法を受けて症状は快復した。三日熱マラリアは比較的症状が軽いタイプのマラリアであるが、P. knowlesi感染はマレーシアで多数の死亡例が報告されているので注意が必要である。ラオスでサルマラリア原虫P. knowlesiのヒト感染が確認されたことは、今後、森林地帯で作業する労働者(ラオス人、および近隣諸国の外国人)、並びに外国人旅行者(日本、韓国、中国、欧米など)の健康を守る上で非常に刮目すべき報告である。

図1. DNA塩基配列に基づくマラリア原虫種の分子系統樹

図1.DNA塩基配列に基づくマラリア原虫種の分子系統樹
赤で示したものが今回の調査によりラオスで確認されたサルマラリア原虫P. knowlesiである。

今後の展望

今後はラオスにおけるサルマラリア原虫P. knowlesiの流行状況を詳細に調べる計画である。まずは今回の調査で患者が確認されたラオス南部の村を中心に、村人の血液検査を実施する。P. knowlesiは、オナガザル科のサルに感染することが知られている。ラオスには少なくとも5種類のオナガザルが生息していると言われているが(Mammals of South-East Asia, New Holland, 2008)、これらのどの種がP. knowlesiを媒介しているのか詳しくは調べられていない。また媒介するハマダラカについては全く調べられていないので、これら宿主の種の同定を試みる。またラオス内の他の地域にもP. knowlesiが生息している可能性があるので、マラリア患者報告数が多い南部5県から2016年以降に採取されたマラリア患者血液検体(25,000検体余り)の高感度遺伝子診断技術を用いたスクリーニング検査を計画している。なお、得られた解析結果は適宜、ラオス保健省並びにWHOへ報告し、同国のマラリア対策に貢献する体制を築いている。

発表雑誌

雑誌名:PLOS Neglected Tropical Diseases
論文名:First case of human infection with Plasmodium knowlesi in Laos
掲載日:米国東部標準時間3月22日午後2時(日本時間3月23日午前3時)に、先行してオンライン版に掲載予定。

参照URL

PLOS Neglected Tropical Diseases ホームページ (http://journals.plos.org/plosntds/
本論文へのアクセス(https://doi.org/10.1371/journal.pntd.0006244

本件に関するお問合せ先

国立国際医療研究センター研究所 熱帯医学・マラリア研究部
責任著者役職名 狩野 繁之(かのう しげゆき)
電話:03-3202-7181(内線 2877)        FAX:03-3202-7364
E-mail: kano@ri.ncgm.go.jp
〒162-8655 東京都新宿区戸山1-21-1

取材に関するお問合せ先

国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
広報係長:三山 剛史(みやま つよし)
電話:03-5273-5258(直通) <9:00~17:00>
E-mail:tmiyama@hosp.ncgm.go.jp

トピック・関連情報
国立国際医療研究センター
CASTB
シスチノーチの広場
ページの先頭へ戻る