韓国の三日熱マラリア原虫集団が2002年から2003年にかけて遺伝的に劇的に変化したことが明らかとなった|国立国際医療研究センター研究所

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2013年10月24日

独立行政法人 国立国際医療研究センター

米国科学誌『PLOS Neglected Tropical Diseases』掲載予定

研究の背景

マラリアは蚊によって媒介される感染症の一つで、2012年の世界保健機関の報告によると、年間2億人以上が感染し、そのうち66万人が死亡すると推定さている。韓国では日本と同じく一度は土着のマラリア流行制圧に成功したが、それから10年以上経過した1993年に、北朝鮮との軍事境界線付近の従軍韓国軍兵士の間で再び三日熱マラリアの流行が始まった。そして今では民間人にまで感染が拡大し年間の患者数は1770人あまりである(2010年)。

この三日熱マラリアは、かつてわが国でも猛威を振るい、本州はもちろんのこと、明治時代に北海道で屯田兵達が苦しめられたという記録も残っている。1959年の彦根市のマラリア制圧を最後に、土着の三日熱マラリアの報告はないが、いまでも媒介蚊であるシナハマダラカは日本国内に棲息している。韓国で三日熱マラリアを媒介する主な蚊の種類が、日本と同じシナハマダラカであり、日本と韓国とを行き来する渡航者のことを考えると、韓国のマラリア原虫やハマダラカのわが国への流入が大いに危惧されるところであり、このような背景から、韓国で再流行した三日熱マラリアが、20年経過した現在でもなお制圧できずにいるその原因を明らかにすることは、わが国の防疫上きわめて重要な課題といえる。

目的

韓国で1993年に再流行が確認された三日熱マラリアが、韓国政府の精力的なマラリア対策にもかかわらず、いまだ制圧できずにいる原因を明らかにすることを大目標とする。そのために三日熱マラリアの病原生物種である三日熱マラリア原虫の集団レベルでの詳細な遺伝子解析を行い、マラリア対策により原虫集団がどのような影響を受け、また時間の経過と共にどのように変化しているのかをDNAレベルで明らかにすることを目的とする。

方法

1994年から2008年にかけて、北朝鮮との軍事境界線付近に従軍した韓国軍兵士から採取された三日熱マラリア原虫163株を材料に用いた。実験材料から原虫DNAを抽出し、DNA増幅法(PCR法)を用いて14座位の原虫のマイクロサテライトDNA(注釈)多型を解析した。各種コンピューター解析ソフトを使って、得られたDNA多型データに基づく集団遺伝学的な解析を行い、韓国の三日熱マラリア原虫集団の遺伝的な特徴や経時的な変化を推定した。

(注釈)マイクロサテライトDNAは一般的に変異が蓄積しやすく、しかもその変異がその個体の生存に対して有利・不利に働かない中立的な変異である場合が多い。そのため遺伝的に近縁な集団内の個体識別や、親子関係の推定などに有効な分子マーカーであり、法医学、生態学、あるいは絶滅危惧種の保全の現場などで広く活用されている。

結果

DNA解析の結果、韓国 では1990年代初頭から2001年ごろまでは、遺伝的に2種類の系統の三日熱マラリア原虫が流行していたが、2002年から2003年にかけてその傾向が大きく変化し、それ以降はそれまでに観察されなかった3種類の系統が大多数を占めるようになった(図1)。すなわちわずか1、2年で集団の置き換わりが生じていたことが明らかとなった。

結論

三日熱マラリア原虫集団が、2002年から2003年にかけて遺伝的に激変した原因は、他の流行地域からの流入によるものと推察された。流行地域の地理的特徴から見て、北朝鮮からの流入によると推察され、これこそが韓国が三日熱マラリアを制圧できずにいる原因と考えられた。

韓国三日熱マラリア原虫(163株)の遺伝的集団構造の変化

図1.韓国三日熱マラリア原虫(163株)の遺伝的集団構造の変化

最も細いタテ棒が三日熱マラリア原虫1株を表す。K = 5は遺伝的に5種類の系統があることを示し、それぞれ黄緑色、黄色、ピンク色、赤色、青色で色分けした。ヨコ軸はサンプルの採取年、タテ軸は各株を構成する5種類の系統の占める割合を示す。1つの株でも、複数の遺伝的に異なる系統が混ざり合ったものがある。ベイズのStructure解析法による。

本研究の概要・意義

韓国軍兵士の間で流行していた三日熱マラリア原虫集団の遺伝的特徴を、DNAデータを用いて15年間に渡って精査した結果、2002年から2003年にかけて、原虫集団が遺伝的に劇的に変化していることが、本研究により世界で初めて明らかとなった。この原因は北朝鮮から遺伝的に異なる系統の原虫集団が流入したことによるものと推察された。

本研究成果は、たとえ人の移動が制限された国同士であっても、マラリアが媒介蚊の飛翔により隣国へ拡散したことを示した例であり、マラリア対策の困難さを如実に物語っている。この様にマラリア対策は一国の努力だけでは不十分であることは火を見るより明らかであり、近隣諸国との緊密な連携と協力が必要不可欠である。それどころか、将来、地球温暖化に伴い蚊の分布域が北上する可能性や、海外からの渡航者の増加などにより、わが国でもマラリアが再流行する可能性は否定できない。韓国内のマラリアの拡散を防疫することをはじめ、近隣諸国との連携と協力を密にしながら、マラリアの流行の発生や拡散を精確にモニタリングすることが必要である。

今後の展望

本研究の成果により、1994年から2008年までの韓国軍兵士の間で流行する三日熱マラリア原虫の遺伝的特徴が明らかとなったので、今後は2009年以降の原虫株や民間人、並びに(もし可能であれば)北朝鮮側の三日熱マラリア原虫の遺伝的特徴を解析し、朝鮮半島全体の三日熱マラリアの流行動態を把握して、今後の韓国における対策、及びわが国の防疫につながる提言をしていきたい。

発表雑誌

雑誌名:PLOS Neglected Tropical Diseases
論文名:Microsatellite DNA Analysis Revealed a Drastic Genetic Change of Plasmodium vivax Population in the Republic of Korea During 2002 and 2003
掲載日10月31日午後8時(米国東部夏時間)に掲載予定
著者:石上 盛敏, Seung-Young Hwang, So-Hee Kim, So-Jung Park, Ga-Young Lee, 松本(高橋) エミリー, Weon-Gyu Kho, 狩野 繁之.
責任著者:Weon-Gyu Kho, 狩野 繁之.

参照URL

http://www.plosntds.org/article/info:doi/10.1371/journal.pntd.0002522

本件に関するお問い合わせ先

国立国際医療研究センター研究所 熱帯医学・マラリア研究部
マラリア学研究部長:狩野 繁之(かのう しげゆき)
電話:03-3202-7181(内線番号:2877)
E-mail:kano@ri.ncgm.go.jp
〒162-8655 東京都新宿区戸山1-21-1

取材に関するお問合せ先

国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
広報係長:三山 剛史(みやま つよし)
電話:03-5273-5258(直通) <9:00~17:00>
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