国立国際医療研究センター研究所
免疫制御研究部

Department of Immune Regulation
Research Institute
National Center for Global Health and Medicine

 
 
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研究概要 <Research>

1.疾患関連遺伝子Lnk/SH2B3と慢性炎症
 細胞内アダプター蛋白質Lnk/SH2B3は、サイトカインシグナルの抑制性制御分子として機能する。骨髄増殖性疾患の一部で遺伝子変異や欠損が見つかっており、多血症や血小板増多症への病態形成関与が考えられる。一方、ゲノムワイド関連解析から1型糖尿病やセリアック病などの自己免疫疾患群、心筋梗塞や高血圧症などの心血管障害に共通する疾患関連遺伝子としてLnk/SH2B3遺伝子のアミノ酸置換を伴う一塩基多型が報告され注目されている。これまでに腸管絨毛萎縮が自然発症するというセリアック病の病態に繋がる分子機構を明らかにしてきた。Lnk/SH2B3は糖尿病関連遺伝子としても報告されており、本年度は糖代謝制御への関与機構を検討した。Lnk欠損マウスは定常時から血糖値が高く、耐糖能低下が観察された。インスリン抵抗性も見られ、標的組織のインスリン反応性低下が考えられた。骨髄キメラマウスを作成して検討したところ、耐糖能低下は造血系細胞 に依存することがわかった。また、Rag2/Lnk重複欠損マウスでも耐糖能低下が認められたことから、T細胞やB細胞の関与は補助的であると考えられた。先行研究にて、Lnk欠損ではIL-15反応性亢進によるCD8+T細胞活性化から小腸遠位部の絨毛萎縮が生じることを報告している。脂肪もIL-15産生組織であることから、Il15欠損マウスと交配したところ耐糖能異常が改善し、IL-15依存性細胞が脂肪炎症を増悪させると示唆された。脂肪組織の非脂肪細胞分画を分離し解析した結果、IL-15依存性であるNK細胞を含む1型自然リンパ球群(group 1-innate lymphoid cells [G1-ILCs])が増加蓄積しており、IFN-γを産生し脂肪組織の慢性炎症を起こすことが明らかとなった。Brd-Uを投与して調べたところ、Lnk欠損では脂肪組織内G1-ILCsの増殖が亢進し増加していること、Il15欠損との交配によりG1-ILCsが著減することがわかった。さらに、抗NK1.1抗体投与によりG1-ILCsを除去すると耐糖能改善が見られることから、これらがインスリン抵抗性の責任細胞であることを明らかにした。一方、近年腸内細菌叢が耐糖能異常にも関与することがわかってきている。Lnk欠損と野生型マウスを同一ケージでco-housingしたところ、Lnk欠損マウスの耐糖能異常は改善せず、また野生型マウスにも耐糖能異常の伝搬は見られなかったことから、腸内細菌叢の変化による耐糖能異常への関与は少ないと考えられた。Lnk欠損により脂肪組織の免疫細胞活性化による脂肪組織炎症が誘発され、耐糖能異常を呈すること、糖尿病の病態形成に寄与するLnk/SH2B3依存性の新規制御機構が明らかになった。

2.IL-5産生性2型自然リンパ球による新しい病態形成機構と維持活性化機構
 IL-5受容体の構造解析から継続してIL-5/IL-5受容体系の生理機能解明を推進し、Il5発現細胞をモニターできるIl5-Venusレポーターマウスを樹立した。その解析から2型ヘルパーT(Th2)細胞以外にもIL-5を産生する細胞があり肺実質に多く存在すること、これらは肺常在性の2型自然リンパ球(ILC2)であることを見出した。IL-33投与による慢性的なILC2活性化を試みたところ、数週間の経過のうちに肺動脈に限局する肥厚病変が生じ、肺高血圧の主徴である右室肥大を呈することを見出した。この肺動脈肥厚病変はIl5欠損または好酸球欠損では生じず、肺高血圧症の治療薬であるプロスタサイクリン類縁体イロプロストを投与することで抑制されることがわかった。イロプロストはILC2へ直接作用して増殖を抑制することが培養系にて確認された。肺高血圧症治療薬の新規分子機構を明らかにするものであり、またプロスタサイクリン類縁体がILC2抑制に有用な新たな薬剤となる可能性を示したものと考えられる。さらに、肺組織での好酸球制御機構解明の一環として、免疫抑制剤サイクロスポリンが肺組織内ILC2を減少させ、アレルゲン暴露時の活性化及びIL-5産生を抑制することを明らかにした。この抑制はRAG2欠損で起こらず、ILC2試験管内培養でも観察されないことから間接的な抑制と考えられる。サイクロスポリンがT細胞活性化を抑制するとともに、これまで知られていなかった作用であるILC2維持及び活性化をも抑制し炎症を抑えることを明らかにした。

3.Nr4aファミリー核内受容体によるTreg分化制御
 Nr4aファミリー核内受容体はNr4a1, a2 ,a3から形成され、制御性T細胞(Treg)の分化誘導で必須の役割を担っていることを、我々は明らかとしてきた。Nr4aファミリーを全て欠失させたマウスではTregは分化せず、マウスは重篤な自己免疫疾患を発症して死に至る。我々はNr4a欠損マウスがTreg欠損のみのマウス(Foxp3-KOマウス)と比較し、さらに重篤な自己免疫疾患を発症することに着目し、Nr4a欠損マウスでTreg分化を遂げられなかった細胞の運命を追跡した。Nr4a欠損細胞は、まず、Treg前駆細胞の段階(CD4SP,CD25hiGITRhi)までは分化できることを確認した後、野生型Treg前駆細胞、野生型Treg、Nr4a欠損Treg前駆細胞と上述Foxp3-KO Treg前駆細胞でトランスクリプトームの比較解析を行った。その結果、Nr4aは多数のサイトカイン遺伝子の抑制及びアポトーシス誘導因子Bimの誘導で必須の役割を担っていることを明らかとした。さらに、Treg前駆細胞は不安定な分化段階であるが、Nr4aはFoxp3とポジティブフィードバックを形成することでこの不安定な分化過程をサポートする機能を持つことを明らかとした。続くin vivoの検討で、Nr4a欠損Treg前駆細胞は生存の促進を示し、さらに炎症性サイトカインを高発現することで、自己免疫応答を誘導する能力を持つことを明らかとした。これまで、Tregは自己抗原に対し反応性に富む細胞から分化することが分かっていたが、Treg前駆細胞が分化を逸脱し自己免疫性細胞に転換するという現象は確認されていなかった。本研究で、Nr4aがTreg前駆細胞の正常な分化を促進し、さらに分化を逸脱した細胞に細胞死を誘導することで、それらTreg前駆細胞が自己免疫性細胞に転換してしまうことを防いでいるというメカニズムを明らかとした。

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GWAS

Lnk G1ILC

 

 

 

 

IL5

 

 

 

 

Nr4a